「Cadaver実習の未来」―コロナ禍で考えたこと-

「Cadaver実習の未来」―コロナ禍で考えたこと-

東京医科大学学報 2021年2月第653号 掲載文

献体を用いた解剖実習(Cadaver実習)の未来はどうなるのでしょうか。近年、バーチャルリアリティーが進化し、様々なシミュレーション技術の開発が進み、医学教育を取り巻く環境は大きく変容してきてます。毎年4月から始まるCadaver実習は、昨年は同月に発出された1回目の緊急事態宣により、例年どおりにできませんでした。今後、あらゆる状況下でも可能な解剖実習のためにバーチャルリアリティーに依存していく流れは加速していくものと思われます。市販されている解剖学シミュレーション機材がさらに進化していけば、医学生のCadaver実習が無くなる可能性もあるでしょう。

今後もCadaver実習を存続させる意義は、究極的には『人体構造の多様性を知る』と『研究の対象とする』に限られてくると思われます。解剖学シミュレーション教材は最も「一般的・普遍的な解剖知識の習得」を目指していますが、実際のCadaversの血管、神経、内臓、筋肉は皆「個性」を呈してます。その「個性」の上に立って肉眼レベルから顕微鏡レベルまでの形態学的所見を得るところにシミュレーション教材は全く入り込めないでしょう。その意味で今後のCadaver実習は卒前よりも卒後教育・研究を中心に存続していく流れになると予想しております。

最後に、しばしばCadaver実習が医学部生の倫理教育の一環として強調されることがあります。しかし、人体構造学分野としては、Cadaver実習の第一義的目的は、倫理教育でもなく、解剖知識の習得でもなく、サイエンスとして大切な『観察する眼を養うこと』と考えております。それを踏まえた上でCadaver実習に臨みたいという学生を本分野として歓迎いたします。
 
人体構造学分野 伊藤正裕
 
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