大動脈瘤・解離の手術
 
動脈瘤の外科手術
 動脈瘤は特別な薬などの内科的治療で治すことはできません.いったん動脈瘤ができてしまうと,それが自然に縮小することはなく,いくら薬で高血圧を調節していても多くの場合は年間に5〜10%ずつ大きくなります.したがって,治療の原則は外科手術か,あるいは別に解説するカテーテル治療となります.
 
人工血管置換手術
Y型人工血管による置換手術  腹部大動脈瘤は,腎動脈が分かれる部分より末梢の大動脈に発生することが多く,臍を中心にして腹部を切開したうえで動脈瘤を切り開き,代わりに人工血管を大動脈の健康な部位に縫い付けて埋め込む手術(人工血管置換術)を行うのが一般的です.
 胸部大動脈瘤についても,瘤を人工血管に置き換えるのが原則ですが,瘤の発生場所によっては,心臓の動きを止めて人工心肺を使用したり,体温(正常37℃)を20〜25℃と極度に低下させたうえで全身の循環血流を停止するなど,複雑な補助手段を必要とすることがあります.

人工血管
Y型人工血管 ポリエステル繊維やフッ化エチレン膜などの素材によって作られており,人体内に移植しても異物反応を示すことはなく,とくに胸部や腹部などの比較的太い血管内では血液が固まる危険性も低いことから,人工血管は極めて安定した人工臓器の一つといえます.
 植え込まれた人工血管は,長期間にわたってほとんど変質することなく血流を保ち続けることができ,その耐久性は20年間以上と考えられます.しかし,人工血管を縫い付けた患者さん自身の動脈にも病変(動脈硬化や炎症など)があった場合は,その縫い目(縫合部)が破綻して動脈瘤を生じることも希ではありますが報告されています.

手術のタイミング
動脈瘤の経時的変化 大動脈瘤の直径が大きくなればなるほど,破裂する危険性が高まります.いったん破裂してしまうと治療は困難になり,外科手術の成績も悪く,専門病院で緊急手術を行っても,その成功率は50%程度です.したがって,瘤が破裂する前に治療するのが原則です.そのほかに,動脈瘤を治療しないで放置しておくと,瘤の壁や内部にある血塊や動脈硬化片が剥がれて血管内に流れ出し,動脈の先端に詰まって障害を起こしてしまうこともあります.
 手術を決断するタイミングは一般的に「動脈瘤の大きさ」といわれています.腹部大動脈瘤では通常,その直径が5〜6cmになれば破裂の危険性が高まるので手術を行うとされていますが,4cm程度でも破裂の危険がないとはいえません.ご本人やご家族にとっても,破裂するかもしれない動脈瘤があるといわれたままで心配するより,いずれ手術しなければならないのであれば,状況の許す限り治療しておいたほうがより安全ともいえるのです.一方,胸部大動脈瘤の場合は,腹部よりも手術が難しくなるので,6cmまで様子をみるのが一般的です.

手術の難易度
 腹部大動脈瘤の手術は,大動脈瘤のなかでも比較的成績が良く,破裂する前に手術すれば95%以上の成功率が得られます.手術後の合併症には「肺炎」や「腸閉塞」などがありますが,その頻度は低く,高齢であっても比較的安全に行うことができます.手術時間は4〜6時間で,入院期間は手術後 2 週間程度です.しかし,誰でも外科手術が受けられるわけではありません.動脈瘤はもともと全身的な動脈硬化のある方に発生する傾向があるので,同時に「脳梗塞」や「心筋梗塞」あるいは「腎臓障害」などが見つかることがあり,これらの疾患が重症な場合は手術の危険性が高くなります.動脈瘤を手術する前に全身検査を行って,これらの疾患の有無を調べ,必要によってはおのおのについての治療が必要になることもあります.
  東京医科大学第 2 外科では,最近の 5 年間に約300人の患者さんを治療し,そのうち60%程度の方に外科手術を行いました.患者さんの中には手術前よりいくつかの併存症を認めていた方がいらっしゃいましたが,外科手術による重症な合併症の発生率は約4%でした.また,手術前から併存症のない患者さんでは,手術が原因となって死亡する率は低く2%程度でした.このほかに,動脈瘤が破裂してショックに陥るなど状態が悪くなってから救急車で東京医科大学の救命救急センターに運ばれ,緊急手術を受けた方が20人程おられますが,その手術死亡率は約50%と不良でした.

 胸部大動脈瘤の手術は腹部大動脈瘤よりも難しく,手術による重篤な合併症として「心不全」,「脳梗塞」,「腎不全」,「肺炎」などがあり,その頻度は動脈瘤の発生する部位により多少異なりますが,おおむね10〜15%といわれています.
 現在では,成功率が90%を下回るような難しい外科手術を必要とする病気は少なくなっているのですが,胸部大動脈瘤の手術では脳をはじめとする重要な臓器へ血液を送る血管をとり替えたり,血流を一時的に止め,その代わりに「人工心肺装置」を使うなど,かなり複雑な手術方法を用いることが合併症の発生する理由となっています.また,動脈瘤が腹部に近い横隔膜寄りにある場合には,脊髄に血液を送っている血管を切断したり,一時的に止める操作が必要となり,このために脊髄が障害されて下半身麻痺が発生し,歩行が困難になったり,排尿排便の感覚が失われたりすることがあります.これを予防するために様々な対策が行われていますが,その発生率はいまだ5〜10%程度あるといわれています.
  東京医科大学第 2 外科では,大動脈の壁に亀裂ができて内外に剥がれる「動脈解離」や「解離性大動脈瘤」を含め,最近の 5 年間に約170人の方に胸部大動脈瘤や外科手術を行いましたが,15%程度に手術後に重症な合併症が生じ,あらゆる努力にもかかわらず残念ながら失いました.しかし,このなかでも以前から動脈瘤のあることが判っていて,その治療のために当院に入院されて手術を受けられた方で亡くなられたのは,脳梗塞,呼吸障害あるいは敗血症を原因とした6%程度の方のみであったのに比べ,突然の動脈瘤の破裂や急な解離によって救命救急センターに運ばれた方では,その死亡率は30%程度と高率でありました.このことは,すでに状態が悪くなってからの治療成績が極めて悪く,いかに早期発見と早期治療が重要であるかということを示しています.このように,胸部大動脈瘤に対する安全な外科治療の確立は,今や世界的な重要課題でもあります.
 そこで,身体に与える負担が軽い治療法として最近注目されているのが,カテーテルを用いて行うステントグラフト内挿術で,東京医科大学第 2 外科では,この新技術の開発にいち早く取り組んできました.その詳細については別に解説しますので,ステントグラフト内挿術をご覧ください.


[HOME]
[対象となる病気] [治療方法] [大動脈瘤・解離の手術] [ステントグラフト内挿術]
[東京医科大学HOME] [東京医科大学第二外科] [東京医科大学第二内科]

Produced by Center for Minimally Invasive Treatment of Cardiovascular Diseases. All Rights Reserved.
Last up date 2005-06-20