ステントグラフト内挿術
 
ステントグラフト治療(人工血管内挿術)
 ステントグラフトは,人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管で,これを圧縮して細いカテーテルの中に収納したまま使用します.カテーテルを,患者さんの脚の付け根を4〜5cm切開して動脈内に挿入し,動脈瘤のある部位まで運んだところで収納してあったステントグラフトを放出します.この方法だと,胸部や腹部を切開する必要はありません.放出されたステントグラフトは,金属バネの力と患者さん自身の血圧によって広がって血管内壁に張り付けられるので,外科手術のように直接縫いつけなくても,自然に固定されます.この方法では,大動脈瘤は切除されず残っているわけですが,瘤はステントグラフトにより蓋をされることになり,瘤内の血流が無くなって,次第に小さくなる傾向がみられます.また,たとえ瘤が縮小しなくても,拡大を防止できれば破裂の危険性がなくなります.このように,ステントグラフトによる治療では手術による切開部を小さくすることができ,患者さんの身体にかかる負担は極めて少なくなります.
 もし,ステントグラフトが何らかの原因でずれた場合は,ステントグラフトと血管のすき間から血液が流れ込むようになり,治療目的が失われます.この場合には,新たにステントグラフトを追加するか,もしくは従来どおりの外科手術をすることになります.
 
レポート:Bさんの場合
 Bさん(88歳,男性)は,老人検診の際に超音波検査で腹部大動脈瘤と診断され,外科手術をすすめられましたが,開腹手術を受ける自信がなく放置していました.今回,かかりつけの医者から東京医科大学第二外科を紹介され,外来でCT(コンピューター断層X線撮影)検査を受けたところ,直径5.5cmの大動脈瘤が認められました.このままだと破裂する可能性もあるため,担当医は人工血管を用いた外科手術と,カテーテルを用いたステントグラフト治療のあることを説明しました.
 Bさんには,そのほかに高血圧症,心筋梗塞などの併存症があるため,外科手術では合併症が出る危険のあることから,ご家族とも十分に相談したうえで,ステントグラフトによる治療を希望されました.そこで,治療をするために必要な条件として,
  1. 動脈瘤のある血管が極度に曲がっていないか,
  2. 動脈瘤の近くから重要な臓器血管が枝分かれしていないか,
  3. ステントグラフトを固定するための健康な大動脈部分が 2cm以上あるか,

などについて精密検査を行い,治療可能と判断しました.
 治療は原則として全身麻酔で行いますが,重症な呼吸器障害などがある場合には局所麻酔か腰椎麻酔でも可能です.レントゲン透視で観察しながら,脚の付け根にある動脈からカテーテルを挿入し,これを通して長さ15cmのY型ステントグラフトを動脈瘤の部位まで運んで固定し,手術を終了しました.手術時間は麻酔も含めて 3 時間余り,輸血の必要はなく,病棟に戻ってすぐにご家族と面会されました.Bさんは手術翌日から動くことができ,食事もとることが可能でした.術後の痛みはほとんどなく,術後 2 週間目に予定していた確認検査を受けたあと退院されました.
 Bさんの大動脈瘤は経過を追うごとに縮小し,1 年後には4cmとなり,さらに縮小傾向がみられています.

東京医科大学第二外科の成績
 東京医科大学第 2 外科では,大学に設置されている倫理審査委員会の承認を得て,平成 7 年よりステントグラフト治療を開始しました.これまでの10年間に腹部大動脈瘤約150人,胸部大動脈瘤(動脈解離を含む)約450人の合計約600人について治療を行っており,とくに胸部大動脈瘤については,世界でも有数の症例数を経験しています.

腹部大動脈瘤:初期治療の成功率は,90%程度です.ステントグラフト治療を受けられた患者さんの多くは以前に腹部の手術を受けた経験がある方や,治療前より「脳梗塞」,「心筋梗塞」あるいは「呼吸障害」などの重症疾患を併せもっており,従来の外科手術を受けた方よりも手術前からの健康状態が悪かったことを考え合わせると,この治療成績は悪くなく,患者さんによってはステントグラフト治療が有用であろうと思われます.

胸部大動脈瘤(動脈解離を含む):治療の初期成功率は,90%程度であり治療関連死亡率は約3%です.この成績は,日本全国の専門施設における胸部大動脈瘤に対する外科治療の死亡率7〜15%と比べて良好でした.しかもステントグラフト治療を受けられた患者さんの多くは治療前より複数の重症疾患を併せもっており,このために侵襲の大きい外科手術を行うことができないと言われていたことを考えると,このような治療困難な患者さんについてもステントグラフト治療が有効と考えられます.



ステントグラフト治療の問題点と対応

 ステントグラフトによる治療は比較的新しい技術であり,世界的にみても10年以上の長期間にわたる充分な追跡調査の実績がないため,治療後も引き続いて定期的に経過を見てゆく必要がありますので,ご協力ください.
この治療に係わる医療費は「ステントグラフト内挿術」として健康保険の適応となっていますので,検査や入院治療費の自己負担は低額で済みます.しかし,ステントグラフト機器については厚生労働省の使用認可が得られておらず(2005年6月現在),健康保険が受けられません.日本では現在のところ,一般的には使用するステントグラフト機器には企業製造されたものがなく,各病院において独自に手作りされている状態です.したがって,人工血管の性能や規格については各々の病院によって異なり,その品質や治療成績にも差が出ることは当然でしょう.
 これらのことから,ステントグラフト内挿術を希望される場合には,治療を受けられる病院において,これまでの治療経験数や長期成績についての説明を充分に聞かれるようお奨めします.また,手作りのステントグラフトを使用することが病院機関から公認されているかどうかを,できるだけ書類によって確認するよう提案いたします.
 尚、東京医科大学第 2 外科(低侵襲治療センター)ではステントグラフトを自作しておりますが,基本的にはその材料費および作成費用を,患者様に請求することはありません.

 


いつでもご相談下さい

 動脈瘤に対するステントグラフト内挿術や従来の外科手術について,お知りになりたいことがありましたら,何時でもご遠慮なくご連絡下さい.

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Last up date 2005-06-20