2021/05/17
研究活動 プレスリリース

【プレスリリース】東京医科大学分子病理学分野の黒田雅彦主任教授の研究チームが HPVが関与しない子宮頚がんの発症メカニズムを解明 ― 世界ではじめて子宮頚部前がん病変のモデルマウスの作製に成功 ―

【概要】
 子宮頚がんは、HPVワクチンの登場により、世界的には減少傾向にありますが、未だに多くの患者さんがいます。国内では、毎年約1万人の女性が子宮頚がんにかかり、約3,000人が死亡しています。この子宮頚がんの新たな発症メカニズムを東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)分子病理学分野の黒田雅彦主任教授の研究グループが解明しました。
 この成果は、HPVワクチンが無効なHPV陰性の子宮頚がんに対する新たな、新たな治療法の開発につながる可能性があります。この研究は日本学術振興会科学研究費補助金並びに文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業の支援のもとで行われたもので、その研究成果は国際科学誌Oncogene(Nature Publishing Group)のオープンアクセス論文として2021年5月4日付で公開されました。


【本研究成果のポイント】

  • HPV E6/E7の発現とエストロゲン受容体シグナリングが子宮頚がんの発症に重要と考えられてきました。しかし、今回HPV E6/E7の発現がなくても、human wings apart-like (WAPL)の高発現でエストロゲン受容体シグナリングが活性化することが示されました。

  • 子宮頚がんの新しい標的となる、WAPLによって活性化するエストロゲン受容体シグナリング関連分子を同定しました。

  • 世界ではじめて、医薬品開発に利用可能なHPV E6/E7が関与する子宮頚がんの前がん病変(子宮頚部上皮内腫瘍)のマウスモデルの作製に成功しました。


【研究の背景】
 子宮頚がんの発症には、HPVがコードするE6/E7遺伝子産物が重要な役割を果たしています。黒田らは、これまでにHPVに感染した前がん病変(子宮頸部上皮内腫瘍、CIN)から、子宮頸がんになる過程で、human wings apart-like (WAPL)という分子が、染色体の不安定性を引き起こすことで、がんが発症することを明らかにしています(Cancer Research 2009)。しかし、近年の研究から、子宮頚がんの発症には、HPV E6/E7のみならず、エストロゲン受容体シグナリングの活性が必須であることが示されています。一方で、進行した子宮頚癌の中には、HPV E6/E7の発現が消失している進行癌が存在します。このような症例の発がんメカニズムは不明なままでした。今回の研究によって、あらためてWAPL遺伝子の重要性が示されました(図1)。

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【掲載誌名】
Oncogene (Nature Publishing Group)

【DOI】
doi: 10.1038/s41388-021-01787-5

【論文タイトル】
WAPL induces cervical intraepithelial neoplasia modulated with estrogen signaling without HPV E6/E7

【著者】
Katsuyoshi Kumagai, Masakatsu Takanashi, Shin-Ichiro Ohno, Yuichirou Harada, Koji Fujita, Keiki Oikawa, Katsuko Sudo, Shun-Ichi Ikeda, Hirotaka Nishi, Kosuke Oikawa, Masahiko Kuroda.

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