東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)医学総合研究所分子細胞治療研究部門の落谷孝広教授と山元智史助教(特任)、分子病理学分野の黒田雅彦主任教授、慶應義塾大学薬学部病態生理学講座の服部豊教授、国立がん研究センター病態情報学ユニットの山本雄介の研究グループは、薬剤に耐性となった多発性骨髄腫細胞から分泌される細胞外小胞(Extracellular Vesicles: 以下EV)が薬剤感受性を持つ細胞に取り込まれることで新たに薬剤感受性株に薬剤耐性能を獲得させることを報告しました。
多発性骨髄腫は造血器腫瘍の一つであり、2000 年代になり、新規治療薬が次々と承認され、患者さんの予後は大きく改善しました。とくにレナリドミドは多くの患者さんが使用する治療薬ですが、薬剤の長期使用によって生じる治療抵抗性は臨床的問題となっています。これまでわかっていたレナリドミド抵抗性のメカニズムとして、その直接の標的分子であるセレブロンの発現低下や遺伝子変異が報告されていました。今回、EV を介して、治療抵抗性が耐性細胞から感受性細胞に伝播する新しい薬剤耐性化機構を発見しました。今後、多発性骨髄腫細胞に対するEV分泌阻害剤などの開発が進み、EV 分泌抑制による治療抵抗性を予防する新たな多発性骨髄腫治療戦略の開発に繋がるものと期待されます。
この研究成果は、米国血液学会誌「Blood」の姉妹誌である「Blood Advances」(2020 年度IF= 6.69)に掲載されました。
【研究のポイント】
・レナリドミド耐性株ではEV の分泌が増加しており、細胞接着能が強くなっていることを発見しました。
・レナリドミド耐性株由来のEV をレナリドミド 感受性株に添加することによって、感受性株が新たにレナリドミド抵抗性を獲得することを発見しました。
・レナリドミド耐性株において、EV 分泌を促進させる遺伝子としてSORT1、LAMP2 遺伝子を同定しました。
・骨髄腫検体を用いたデータベースの再解析より、 SORT1、LAMP2 遺伝子の高発現症例は予後不良であることが明らかになりました。
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