東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)医学総合研究所の吉岡祐亮講師と落谷孝広教授が参画する共同研究グループ(神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター: 林康貴 特任研究員、井上大地 血液・腫瘍研究部長、北村俊雄 センター長)が、骨髄異形成症候群(MDS)由来の細胞外小胞エクソソームによる骨髄微小環境を介した造血不全の新規メカニズムを解明しました。これまで、MDS 細胞が経時的に骨髄中で正常造血幹細胞に対して優位性を獲得するメカニズムは分かっていませんでした。今回の研究成果では、MDS細胞が分泌するエクソソームに内包されるマイクロRNA(miRNA)群が細胞骨髄微小環境中の間葉系幹細胞(MSC)の骨芽細胞系列への分化を抑制し、正常造血に対するニッチ機能を破綻させ、造血不全を引き起こす新しいメカニズムを明らかにしました。これらの結果は骨髄環境の改善が造血抑制の解除につながることを示しており、MDS の治療に大きく貢献することが期待されます。
この成果は、国際科学誌「Cell Reports」に、2022年5月10日(米国東部時間午前11時)にオンライン掲載されました。
【研究のポイント】
・MDS患者の骨髄では残存している遺伝子変異をもたない「正常」なはずの造血幹細胞も強く障害を受けていることがわかりました。
・造血抑制作用は、血球細胞間での直接的な作用だけではなく、周囲の支持的ニッチとして重要な間葉系幹細胞を介していました。
・MDS細胞はエクソソームを介して間葉系幹細胞の骨への分化を抑制し、ヒトでも認められるように骨形成の障害を引き起こします。この骨形成が正常造血に必須であるために、MDS細胞が相対的に優位となり病期が進展していくと考えられます。
・上記の分子メカニズムとして、MDS細胞が分泌するエクソソーム内のmiRNAが間葉系幹細胞の分化を抑制していることをヒト・マウスの広範な検証から明らかにしました。