東京医科大学医学総合研究所未来医療研究センター実験病理学部門の中村卓郎特任教授は、京都大学大学院工学研究科横川隆司教授、S. Chuaychob特定研究員(現:京大エネルギー理工学研究所特定助教)、公益財団法人がん研究会がん研究所がんエピゲノムプロジェクト田中美和主任研究員らとの共同研究で、胞巣状軟部肉腫(alveolar soft part sarcoma, ASPS)を模倣したASPS-on-a-Chipを開発し、腫瘍形成時に血管新生を誘導する血管新生因子が輸送される仕組みを生体外で再現することに成功しました。
ASPSは希少がんである軟部肉腫の一つで、AYA世代(思春期・若年成人)に好発します。腫瘍の増殖は緩やかですが、血管形成が盛んなことから全身に転移する傾向が強く、予後不良な疾患です。ASPSの標的遺伝子には血管形成因子自体と、それらを運ぶ細胞内輸送促進因子が含まれ、ASPSにおける独特な血管構造の原因となっていることがわかっています(M. Tanaka et al., Nat Commun, 2023)。
今回、腫瘍細胞、周皮細胞、および血管内皮細胞からなる共培養系により、血管が豊富なASPS-on-a-Chipを作製して腫瘍微小環境を模倣しました。これにより、機能的および形態的に生体内のASPSを模倣し血管網の透過性が上昇すること、および細胞内輸送促進因子であるRab27aとSytl2が血管新生を誘導することを実証しました。今後、輸送促進因子機能を抑える全く新しい治療方法の開発にもつながる成果と期待されます。
本研究成果は2024年3月22日(米国東部時間)に国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」(米国科学アカデミー紀要)のオンライン版に掲載されます。
【本研究のポイント】
- 生体模倣システム(Microphysiological systems (MPS))内に、ASPS腫瘍細胞からの血管新生因子により血管内皮細胞と周皮細胞からなる、血管が豊富な腫瘍微小環境であるASPS-on-a-Chipを開発した。
- ASPSの原因融合遺伝子ASPSCR1-TFE3 (AT3)の存在により血管新生がより誘導され血管領域が拡大すること、腫瘍に血管が貫入すること、血管壁の透過性が高くなることが明らかとなり、腫瘍における血管の機能が健常状態とは異なることがわかった。
- 細胞内輸送促進因子Rab27aとSytl2をノックアウトすることで血管新生が抑制されること、またそれらが輸送する血管新生因子PdgfbとGpnmbがマウスモデルと同様にASPS-on-a-Chipにおいて高く発現することで血管新生が促進されることがわかった。