東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)循環器内科学分野の冨山 博史 教授・山科 章 主任教授(研究当時)、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)人間情報インタラクション研究部門 菅原 順 研究グループ長、ならびに米国テキサス大学オースティン校(以下「テキサス大学」という)の田中 弘文教授と共同で、脈波伝播速度(pulse wave velocity:PWV、以下記述のbaPWV、hbPWV、CAVIもPWVに分類される)法を用いた近位大動脈(心臓近位部の大動脈)硬化度の簡易計測技術を開発しました。
心血管疾患(Cardiovascular disease: CVD)は、国内における主な死亡原因や要介護原因になっています。その原因となる動脈硬化の度合いを計測し評価することは、当該疾患の発症予防につながります。国内外で普及している全身的な動脈硬化度指標である上腕-足首脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity: baPWV)は中年期以降に著しく増大します。baPWV計測の際には、仰向けの姿勢をとり、血圧測定用カフを上腕と足首に巻く必要があります。
これに対し、今回有用性を検討した心臓-上腕脈波伝播速度(heart-brachial pulse wave velocity:hbPWV)は、30歳代という早い時期から加齢に伴い増大する近位大動脈の硬化度を反映し、baPWVよりも早期に、かつ高精度にCVDリスクを検出できる可能性があります。また、心音と上腕脈波波形の同時計測から算出するhbPWVは、上腕血圧を測る要領で座位姿勢のまま計測が可能で、検査を受ける人と医療従事者の負担が軽減されます。
hbPWV計測のアルゴリズムは、スポットアーム式の血圧計、さらには家庭用血圧計にも搭載できる可能性があります。これが実現することで動脈硬化度指標を計測する機会が増え、CVDリスクを早期に発見できる機会をより多くすることが期待できます。なお、この技術の詳細は、2024年8月1日に「Hypertension Research」に掲載されました。
【本研究のポイント】
- 心血管疾患の発症と関連のある心臓近位部の大動脈の硬化度を評価する簡易計測技術を開発
- 上腕血圧を測る要領で簡単に計測可能なため、検査にかかる負担が軽減
- 30歳代から加齢とともに増大する指標であり、より早期・高感度な心血管疾患リスク同定への応用に期待