血液には、直径が数10~数100nmのEV: extracellular vesicles(細胞外小胞)など、無数の微粒子が含まれています。近年、疾患の早期発見の手がかりとして注目を集めるEVですが、疾患に関連するEVは血中微粒子全体のごく一部に過ぎません。そして従来の低速な微粒子解析技術では、これらの微粒子を、短時間で高い再現性をもって検出することは困難でした。
そこで、東京医科大学医学総合研究所の吉岡祐亮講師、東京大学先端科学技術研究センターの岩本侑一郎特任研究員(研究時は博士大学院生)、太田禎生准教授、バーミンガム大学のAlex Krull博士、Benjamin Salmon博士大学院生、東京大学大学院医学系研究科の小嶋良輔准教授らの研究グループは、新規の教師なし深層学習デノイズ法により観測系の感度を向上させ、最小直径30~40nmの微粒子を、1秒間に10万個以上という高スループットで観測可能な「Deep Nanometry (DNM)」を開発しました。この技術を用いて、非精製血清中にわずか0.002%という低濃度で存在した大腸がん関連EVの検出に成功しました。さらに精製血清を用いた解析では、健常者に比べ、がん患者の血中において大腸がん関連EVの陽性率が有意に高いことを確認しました。
希少微粒子を短時間で正確に検出できるDNMは、疾患の早期診断や治療経過観察などの医療分野、ナノ粒子が関わる産業分野全般へと、幅広い応用が期待されます。
本研究成果は、2025年2月20日(米国太平洋標準時間)、「Nature Communications」に掲載されました。
【本研究のポイント】
- 光・流体ハードウェア技術と、教師無し深層学習デノイズ技術を融合した高速・高感度微粒子計測技術「Deep Nanometry(DNM)」を開発しました。最小直径30~40ナノメートル(nm)の微粒子を、1秒に10万粒子以上を検出できる、世界最高水準の感度とスピードを実現しています。
- DNM技術は、従来はノイズに埋もれていた微粒子の微弱な一次元散乱光信号を、新規AIデノイズ技術で回復しています。DNM計測による高感度で高速な大規模微粒子解析により、血中の極めて希少な微粒子を特別な前処理なしで迅速に検出できることを実証しました。安価で迅速で、再現性の高い診断につながる可能性を示しました。
- 病気の早期診断や治療効果モニタリングなどの医療応用に加え、薬剤送達用ナノ粒子やナノ材料の品質管理といった産業応用も期待されます。さらに、体液中に存在する多様な生体微粒子群に対する基礎科学研究に、新たな視点を提供します。
【論文情報】
- タイトル: High throughput analysis of rare nanoparticles with deep-enhanced sensitivity via unsupervised denoising
- 著 者: Yuichiro Iwamoto†, Benjamin Salmon†,Yusuke Yoshioka, Ryosuke Kojima, Alexander Krull* and Sadao Ota*
(*: Corresponding author(s),†: These authors contributed equally to this work.) - 掲載誌名:Nature Communications
- D О I : https://www.doi.org/10.1038/s41467-025-56812-y
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