2025/10/28
研究活動 プレスリリース

【プレスリリース】ALSの病態の謎。~なぜ体の動きだけ奪われるのか?~

【概要】
 ALS(筋萎縮性側索硬化症、きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)は、神経細胞が徐々に失われることで、全身の筋肉が衰える難病です。患者数が多いため、精力的に研究が行われてきましたが、発病に至る原因が特定されておらず、有効な治療法も存在しません。この病気で不思議なのは、意識や五感に関わる神経細胞は保たれたまま、体を動かす神経細胞「運動ニューロン」だけが失われることです。さらに、運動ニューロンのなかでも、"大きいもの"(力強い動きを生む)が失われやすく、"小さいもの"(繊細な動きを生む)は影響を受けにくいことが知られています。このような「神経細胞の失われやすさの差」が生まれる仕組みは、ALSに特徴的な謎であり、解明されれば、病因の特定につながるかもしれません。
 今回、国立遺伝学研究所の浅川和秀准教授らの研究グループは、ゼブラフィッシュ(生きたまま神経細胞を観察できる)を使った研究で、大型の運動ニューロンでのみ、オートファジーなどの、不要なたんぱく質を分解する活性が極めて高いことを発見しました。不要分子の分解は、どの細胞にも起きる作用ですが、大型の細胞は大量のタンパク質分子を合成・分解する必要があるため、特にその負担が大きいのです。浅川准教授らは、ALSに関連する遺伝子変異を導入すると分解はさらに高まり、逆に分解を人工的に抑えると、神経と筋肉の接合が阻害されることも発見しました。これらの事実は、体の動きに関わる脳・脊髄・筋肉といった離れた器官を一本の細胞でつなぐ必要上、必然的に大きくならざるを得ない運動ニューロンが、その大きさゆえに大量のタンパク質を正しく合成・分解するという重い負担を抱えていることを示唆しています。その負担の大きさが「神経細胞の失われやすさ」を決め、ALS特有の「体が動かなくなる」という症状となって表れる可能性が考えられます。

 本成果は、国立遺伝学研究所・神経システム病態研究室の浅川和秀准教授、東京大学医科学研究所の佐伯泰教授、東京医科大学医学総合研究所分子薬理学部門の半田宏客員教授(部門長)らの共同研究によるもので、2025年10月27日(日本時間)に国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。

【論文情報】

  • タイトル:Intrinsically accelerated cellular degradation is amplified by TDP-43 loss in ALS-vulnerable motor neurons in a zebrafish model
  • 著者:Kazuhide Asakawa*, Takuya Tomita, Shinobu Shioya, Hiroshi Handa, Yasushi Saeki, Koichi Kawakami(*筆頭・責任著者)
  • 掲載誌名:Nature Communications
  • D О I  : https://doi.org/10.1038/s41467-025-65097-0

■プレスリリースはこちら>>

■医学総合研究所 分子薬理学部門のHPはこちら>>

ページトップ