口腔外科学分野

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主任教授
近津 大地
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概要

東京医科大学口腔外科学分野は、昭和21年に東京医科大学病院(淀橋病院から改称)に歯科が設置され、上野 正氏(元東京医科歯科大学名誉教授)が初代科長として就任された時までさかのぼります。実に80年近くにわたる歴史と伝統を有した診療科です。

現在、当科では、臨床においては顎変形症などについて手術、顎顔面骨骨折の整復、唇顎口蓋裂の矯正治療および顎矯正手術、口腔癌の外科的治療や化学療法、またデンタルインプラントを用いた歯科補綴治療などを行っています。

研究においては口腔再建における再生医療の基礎的・臨床的研究、口腔癌における診断・治療の基礎的研究、睡眠時無呼吸症候群における顎顔面形態からのアプローチに関する臨床的研究、舌痛症など慢性疼痛の発症機序や治療に関する研究など、歯科口腔外科で扱われる臨床症例と密接に関連した研究を行っています。

また、当科は社団法人日本口腔外科学会研修施設でもあり、口腔外科専門医・指導医7名で、口腔外科の専門的知識と経験を有する歯科医師の養成にも力を入れています。現在、非常勤、大学院生を含め医局員は80名を超え、臨床・教育・研究に情熱を傾け、口腔外科学分野におけるリーダーとなるべく日々研鑽に励んでいます。

教育内容

主な研究領域(研究内容)

微生物由来メタボライトと外膜小胞の機能解析による口腔粘膜炎発症機序の解明

頭頸部がんに対する化学放射線療法によって生じた口腔粘膜炎患者の口腔細菌叢で優位となる細菌が放出するメタボライトの同定に加え、三次元口腔粘膜炎モデルによる口腔内細菌由来外膜小胞の特性を解明することで、口腔粘膜炎の発症と増悪のメカニズムを探る。

cN0舌癌に対する予防的頸部郭清術の前向き観察研究(多施設共同研究)

cN0舌扁平上皮がんに対して根治手術をおこなった患者を対象に、予防的頸部郭清術を行った患者と行わなかった患者で群を分け経過を観察することで、予防的頸部郭清術の有用性を検証する。

口腔扁平上皮癌頸部郭清症例における微小転移巣の臨床的意義についての検討

これまで頸部郭清術を施行した症例の術前診断、術後病理学的診断および予後に関する既存情報を解析し、微小転移の臨床意義を見出すと共に、診断定義と治療方針の統一化、潜在性リンパ節転移の予測因子を明らかにする。

顎骨周囲軟組織変性をターゲットにした新たなMRONJ発症関連因子の検索

薬剤関連顎骨壊死(Medication related osteonecrosis of the jaw, MRONJ)の病態解析のため、骨代謝修飾薬( Bone Modifying Agents: BMA )の顎骨周囲軟組織に対する作用として、特にコラーゲン変性に着目して主にin-vivo実験系とヒト実験系を用いて、MRONJ発症メカニズムの解明、潜在的なMRONJ発症関連因子、MRONJ発症危険度予測について検証する。

定量的画像診断と病理組織診断を融合した新たな骨病変診断モデル開発のためのDigital image registration技術の確立

近年、高分解能SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)画像から集積強度を定量化できるxSPECT Boneが開発され注目されている。この定量的放射線画像診断と病理組織診断を融合することで、骨病変の臨床病理診断や病態解析において、新たなパラダイムを開く可能性がある。この診断モデル確立のため、最新のデジタル技術を応用したDigital image registration技術に関して検証する。

口腔顎顔面手術におけるComputer assisted surgeryの応用と有用性の検証

近年、急速に普及しているコンピューター上でのVirtual Surgical Planningと3D printing技術によるComputer assisted surgeryを、高精度手術が要求される様々な口腔顎顔面手術に最適なPatient specific Instrument (PSI)を作製し応用することで、その手術精度と有用性について検証する。

歯科インプラント周囲炎に対する新規治療法の研究

インプラント周囲炎とはインプラント体周囲の歯槽骨を吸収させる疾患で、本疾患に罹患すると極めて難治性であり、治療法は未だ確立されていない。当科では骨芽細胞や破骨細胞の分化抑制に関与している骨免疫タンパク質であるセマフォリンに注目し、新規治療法について取り組んでいる。

超硫黄分子に着目したがん化学療法誘発口腔粘膜炎の新規治療薬の開発

口腔粘膜炎は、がんの化学療法による主要な副作用の一つであるが、対処療法はあるものの、その治療法に関しては確立できていない。近年、連続的に結合した硫黄原子を含有する有機化合物である超硫黄分子が生体内で多量に存在し、さまざまな機能が発見され注目を集めている。中でも強い抗酸化能を有することが明らかになり、活性酸素など酸化ストレスをもたらす疾患に対し効果が期待できる。そこで本研究では、口腔粘膜炎での超硫黄分子の関与を明らかにすることにより、口腔粘膜炎に対する新規治療薬の開発に繋げることを目的とする。

XRとSimilar Real Patient Modelを用いた新規歯科インプラント手術教育法に関する研究

これまで、歯科インプラントをはじめとした口腔外科手術教育は実際の患者を前にしたOn the job training(OJT)によるところが大きかったといえる。しかしながら医療安全が声高に求められる時代の背景と共に、抜歯や歯科インプラント手術などの外来手術においてはOJTの機会に制約が生じているのが現状である。そこで本研究は従来の手術教育の欠点を克服すべく、患者CTデータから作製したVirtual Reality(VR)データを基に術前に3次元的な解剖学的情報および術式を「Input」し、さらに実物大3D プリンティング模型「Similar RealPatient Model (SRPM)」を用いた手術シミュレーションによる「Output」までを一貫して行う、口腔外科領域における新規手術トレーニング法を確立することを目的とする。

上下顎骨切り術における骨片移動精度を向上させる新規術中ナビゲーションシステムの開発

骨格的な顎顔面骨の不正を改善するために行われる上下顎骨切り術は、手術によって上下顎の骨切りを行い、それぞれの骨片を適正な位置に移動することで顔貌の整容面の改善および正常な咬合の確立を目的します。これまでに骨切り後の骨片の移動に関する様々な手法が考案されていますが、いかに術前に設定した移動量を術中に再現できるかが研究課題として挙げられる。本研究は工学院大学との共同研究として行われており、AR(拡張現実)技術を応用した新規の骨片移動に関する術中ナビゲーションシステムの開発に取り組んでいる。

口腔外科手術による軟組織形態変化の臨床的検討

3次元カメラによる三次元的立体写真計測法によって、口腔外科手術での軟組織形態変化の臨床的検討を行い、顔貌変化をきたす原因やリスク因子を探索する。術式の選択や術後の管理や治療等に関して適切な解析を行うことにより、新たな診断法・治療法・予防法等を検討する資料とすること、また、審美的障害が少なくより安全で患者満足度の高い顎顔面手術法の確立に資する知見を得ることを目的とする。

口腔内細菌叢の解析による口腔粘膜炎病態メカニズムの解明

放射線化学療法中に口腔粘膜炎を発症した患者の口腔内細菌叢が変容することに着目し、そのメタボライトとエクソソームの解析を行うことにより、口腔粘膜炎発症や進行メカニズムの解明、治療法の確立を目指している。

破骨細胞由来EVがMRONJに与える影響に関する研究

薬剤関連顎骨壊死 (Medication-related osteonecrosis of the jaws: MRONJ) におけるExtracellular vesicles (EVs) の関与による基礎的知見を見出し、発症メカニズムおよび病態の解明を目的としている。昨今、細胞間コミュニケーションツールとしてEVが果たす役割に注目が集まっており、MRONJもその病態には骨のリモデリング、つまり骨芽細胞と破骨細胞のコミュニケーションが大きく関わっているが、その病態とEVの関連を示す研究はまだない。現在、我々はMRONJに特異的な発現様式を示すmiRNAを破骨細胞由来EV中から特定し、そのmiRNAを発現調節した際の骨代謝能に関する検証を行っている。最終目標としては、これまで不明であったMRONJのバイオマーカーや新規治療ターゲットの発見に繋げ、現在においても多くの臨床家が難渋しているMRONJの診断や治療に革新的な一歩をもたらすことを掲げている。

顎矯正手術による形態変化と睡眠呼吸障害に関する研究

顎変形症とは、上顎骨または下顎骨あるいはそれら両者の大きさや形、位置などの異常によって美的不調和を示すものである。顎矯正手術は顎の骨だけでなく舌などの軟組織にも影響を与え、上気道形態にも変化を及ぼすため、後遺障害として睡眠呼吸障害をきたす危険性がある。しかし、実際の手術計画において上気道形態を考慮した指標は未だ存在していない。そこで顎矯正手術が及ぼす上気道形態変化と睡眠呼吸障害との関連を明らかにし、より安全な治療方法の確立を目指している。

ヒト歯髄幹細胞における骨芽細胞分化能を予測する因子の探索研究

ヒト歯髄幹細胞は歯髄より採取される多能性間葉系幹細胞で、他の幹細胞を上回る高い増殖能・多分化能を有しており、骨再生をはじめとする再生医療の分野での新たな細胞源として期待されている。しかし、ヒト歯髄幹細胞の骨形成能には個体差があることが複数の研究で指摘されており、その個体差が何に影響を受けているのかはわかっていない。現在我々は、個体差の原因となる関連遺伝子を特定することに成功し、これを応用することで骨再生のためのドナーの選択基準に用いることができないか更なる検証を行っている。ヒト歯髄幹細胞を用いたより高効率な骨化誘導法の確立を実現させ、顎骨再建や骨移植等への臨床応用を目指している。

多血小板フィブリンを用いたヒト歯髄幹細胞の新規増殖分化誘導法の開発

ヒト歯髄幹細胞を含む間葉系幹細胞は従来ウシ由来血清(FBS)などの異種由来製剤を用いて培養されてきたが、未知の病原体の存在や拒絶反応を引き起こす可能性があり、ヒト歯髄幹細胞を用いた細胞治療を行う上で問題視されてきた。そこで我々は、動物由来製剤の代替として、ヒトの血清から容易に得られる多血小板フィブリン(PRF)を用いてヒト歯髄幹細胞の培養・分化誘導を行い、FBSと同等以上の多分化能を有するヒト歯髄幹細胞の新規増殖分化誘導法を確立することに成功した。現在、この新しい手法を用いて生体内での骨再生能を検証するため、小動物を用いた動物実験を計画している。

ミニブタ歯髄幹細胞を利用した大動物顎骨欠損モデルにおける骨治癒の検討

我々はこれまでに生理活性物質であるヘリオキサンチン誘導体と共培養した歯髄幹細胞シートをマウスの頭蓋冠臨界骨欠損モデルに移植し、有意な新生骨形成能を報告してきた。しかし、移植細胞の生体内での作用機序および大動物における骨分化誘導能は不明である。そこで、green fluorescent protein (GFP)ミニブタを用いて、歯髄幹細胞由来骨芽細胞の生体内での機能を研究している。

ヒト歯髄幹細胞のコリントランスポーターの機能解析および骨分化誘導との関連性

近年、癌細胞においてコリントランスポーターは細胞増殖および生存のために必要不可欠であることが報告されているが、癌細胞と同じく高い増殖能をもつ歯髄幹細胞におけるコリントランスポーターの機能解析に関する研究は未だ報告がなされていない。歯髄幹細胞におけるコリントランスポーターの機能解析・自己複製能の関連性を研究することにより、自己複製能を高め効率よく多くの幹細胞を得ることができる可能性がある。またコリントランスポーターと骨分化誘導の関連を研究することにより、インプラント治療において顎骨吸収が大きい患者や、顎骨腫瘍摘出後の顎骨欠損患者における骨再生治療に大いに貢献する可能性がある。

大学院医学研究科について

担当科目名名称

口腔外科学

講義概要

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