東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)人体病理学分野の長尾俊孝主任教授、同大社会人大学院研究系専攻 人体病理学分野博士課程3年の内海由貴大学院生、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科の本間義崇医長、国際医療福祉大学三田病院頭頚部腫瘍センターの多田雄一郎部長(東京医科大学人体病理学分野 客員准教授)らの研究グループは、アンドロゲン受容体(AR)陽性唾液腺がんに対する抗アンドロゲン療法(アパルタミド+ゴセレリン)の臨床的有用性の検証に加え、その治療による利益が得られる患者さんを特定するための腫瘍検体や血液検体を用いたバイオマーカー解析を行う研究を実施しました。
その結果、AR発現割合が高い場合や、全身治療が行われていない場合に、奏効割合が高い傾向を確認しました。また、一部の遺伝子増幅の存在が治療抵抗性に関わっている可能性が示されました。
本研究は、AR陽性唾液腺がんへの新規抗アンドロゲン療法であるアパルタミド+ゴセレリン療法の臨床的有用性に加え、治療抵抗性に関わるバイオマーカーの意義を示したことが評価され、2024年6月28日、米国科学雑誌「Clinical Cancer Research」に掲載されました。
【本研究のポイント】
- アンドロゲン受容体(AR)陽性の唾液腺がんに対する新規抗アンドロゲン療法の有効性と安全性を評価した臨床試験(YATAGARASU試験)の結果が公表されました。唾液腺がんに対する抗アンドロゲン療法の臨床的有用性を治験として検証した日本初の研究になります。
- 次世代のAR阻害薬であるアパルタミドと、男性ホルモンの分泌を抑制する性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニストであるゴセレリンの併用療法が投与された患者さん24名において、6名(25%)に奏効を認め、12名(50%)に臨床的に有用な効果(半年以上の治療効果の持続、または奏効あり)が示されました。
- また本研究では、患者さんの腫瘍検体や血液検体を解析し、組織型・AR発現割合・治療歴・各種遺伝子異常といった因子と、治療効果の関連を検討するバイオマーカー研究を実施し、奏効例の特徴や治療抵抗性に関与する機序が示唆されました。
- 腫瘍組織におけるAR発現割合が70%以上で、これまで全身治療が行われていない患者さん11名において、6名(54.5%)に奏効を認めました。通常ARが強く発現する「唾液腺導管癌」と呼ばれる悪性度の高い組織型の腫瘍に着目して行ったバイオマーカー研究の結果、遺伝子パネル検査でMYCやRAD21という遺伝子の増幅が検出された患者さんにおける抗アンドロゲン療法の効果が乏しいという結果が示されました。また、一部の患者さんの治療終了時の血液検体にて上記の遺伝子増幅が検出されていたことから、これらの遺伝子異常が抗アンドロゲン療法の治療抵抗性に関わっている可能性が示唆されました。
- 本研究の結果、AR陽性唾液腺がんへのアパルタミド+ゴセレリン療法の臨床的有用性に加え、治療抵抗性に関わるバイオマーカーの意義を示したことが評価され、米国科学雑誌「Clinical Cancer Research」に掲載されました。
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