水疱症

皮膚に水疱(水ぶくれ)を生じる機序は、外傷(けが)・熱傷(やけど)、虫刺され、接触皮膚炎(かぶれ)、ウイルスや細菌による感染症などがありますが、これらは「水疱症」には当たりません。「水疱症」とされるのは、自分の皮膚に対する抗体を作ってしまう免疫異常で生じる疾患、あるいは遺伝子異常による先天性の疾患ですが、当院で診ている患者さんはすべて前者です。

 

自分の体に対する抗体を自己抗体と言い、自己抗体による病態を自己免疫といいます。自己免疫で水疱を作ってしまう疾患が自己免疫性水疱症です。その代表的疾患は、「尋常性天疱瘡」と「水疱性類天疱瘡」です。
当科の水疱症外来は、毎週木曜日の午後に開設しています。30人くらいの患者さんが通っていますが、およそ3分の1が「尋常性天疱瘡」、残り3分の2が「水疱性類天疱瘡」の患者さんです。それぞれについて説明しましょう。

1.尋常性天疱瘡

皮膚の一番浅いところにある層を表皮といいますが、表皮の細胞同士はデスモグレインという物質で結合しています。尋常性天疱瘡の患者さんでは、デスモグレインに対する自己抗体が生じ、表皮細胞同士の結合を壊してしまいます。そのため、表皮細胞がばらばらになり水疱を作ります。この水疱は膜が薄く、すぐに破れて「びらん」を形成します。びらんは外傷や熱傷でも生じますので類推していただければ想像つくように、痛みを伴います。びらんが口の中の粘膜に生じると、痛くて食事がとり辛くなります。尋常性天疱瘡では、粘膜だけにびらんを生じるタイプと、皮膚と粘膜の両方にびらんを生じるタイプがあります。一方、皮膚だけにびらんを生じるタイプもあり、この場合は、落葉状天疱瘡と言います。尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡をまとめて「天疱瘡群」といいますが、当科で診ている「天疱瘡群」の患者さんのほとんどは尋常性天疱瘡です。

2.水疱性類天疱瘡

表皮の下の層を真皮と言います。表皮と真皮もまたある物質により結合していますが、その役割を担う物質(BP180、BP230)に対する自己抗体で生じる疾患が水疱性類天疱瘡です。尋常性天疱瘡より深い層で水疱ができるので、水疱の膜が厚く比較的破れにくいため、はっきりとした水疱(緊満性水疱)ができるのが特徴です。通常、水疱の周りに痒みの強い紅斑が拡がります。中には、水疱がほとんどなく痒い発疹だけがあって、詳しく調べたところ水疱症類天疱瘡だということが判明することもあります。

 

水疱性類天疱瘡の患者さんは、尋常性天疱瘡より高齢の方に多い傾向があります。

診断法

診断のためには、皮膚生検と血液検査を行います。皮膚生検は、局所麻酔下で皮膚を小さく切り取り、水疱が表皮の中(天疱瘡群)か表皮の下(水疱性類天疱瘡)かを調べます。更に、蛍光抗体法という手法を使い、自己抗体の沈着が表皮細胞間(天疱瘡群、図1)か、表皮・真皮境界(水疱性類天疱瘡、図2)かを確認します。以前は、この方法で診断するだけだったのですが、最近は血液検査(CLEIA法)で、抗デスモグレイン抗体、抗BP180抗体を調べることも可能になりました。

図1・図2

治療法

治療は、自己免疫を抑える目的で内服ステロイド(副腎皮質ホルモン)を第一選択として用います。軽症の患者さんは外来で始めることもありますが、通常は十分量を使用するために入院していただくことが多いです。ステロイドの投与で自己抗体が減ると新しい水疱ができなくなりますので、少しずつ減らしていきます。当科に通っているほとんどの患者さんは、このようにステロイド単独で良好にコントロールされています。

 

まれに、内服ステロイドだけではコントロールできない患者さんがいます。その場合は、免疫抑制薬の併用、注射用ステロイドの点滴(ステロイドパルス療法)、二重濾過膜血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法(2015年11月から水疱性類天疱瘡にも使えるようになりました)などを併用します。免疫抑制薬以外の方法は入院が必要です。

 

ステロイドは自己免疫を抑える効果がありますが、裏をかえせば感染に対する免疫力も低下します。そのため、マスクなどの感染対策が通常以上に重要になります。そのほかの副作用としては、消化性潰瘍と骨粗鬆症がありますので、胃や骨に対する薬を併用するのが普通です。その他、血糖値や血圧を上昇させる副作用もありますので、定期的な通院と採血が必要です。

 

なお、天疱瘡群も水疱性類天疱瘡も難病指定されています(水疱性類天疱瘡は2015年から)。申請したい場合、地域の保健所から申請書類を取り寄せてください。担当医が必要事項を記入してお返しします。認定されれば医療費が補助されますが、補助が受けられるのは申請日からになります。

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