東京医科大学「優秀学位論文賞」
東京医科大学「優秀学位論文賞」は、本学の大学院研究科博士課程教育の高度化を目的として、優れた学位論文(3編)を顕彰するものです。
審査について詳しくは、優秀学位論文賞「審査細則」をご確認ください。
受賞者の公表
本学の大学院博士課程教育の高度化を推進するため、令和3年度より「優秀学位論文賞」が創設されました。これは、各年度で授与された学位(甲)論文の中からベスト3を顕彰する制度です。
令和5年度は、学位(甲)論文全40編の中から以下の3氏が選出され、令和6年6月19日の医学科教授会・大学院医学研究科委員会にて林 由起子学長より表彰状と記念品が授与されました。
審査委員は大学院運営委員会委員(学長、副学長、研究科専攻主任・副主任の計12名)より構成され、審査基準として、本学の博士課程ディプロマポリシーに則り、①新たな学理を拓く独創性があること、②自立して研究活動を実践できる能力があること、の二点に重点がおかれ選考が行われました。そのため、論文内容に加え、公開学位審査時の主査・副査と発表者間での質疑応答(Zoom録画)も審査対象となっています。なお、審査時の動画は本学eラーニングポータル「e自主自学」(学内専用)から閲覧が可能です。
令和5年度受賞者:山下 凱(耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野) | 山口 知子(臨床検査医学分野) | 清水 広之(眼科学分野)
山下 凱(耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野)*令和5年4月19日修了
P53 regulates lysosomal membrane permeabilization as well as cytoprotective autophagy in response to DNA-damaging drugs
(p53はDNA障害性薬剤に呼応してリソソーム膜透過性亢進と細胞保護的オートファジーを制御する)
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■指導研究室:生化学分野
この度は優秀学位論文賞を受賞することができ、大変光栄に思っております。
本研究では、p53の新たな革新的一面を示すことに成功しました。p53は「細胞死を導くリソソーム膜障害」と、「細胞保護的なオートファジー」の2つの制御を介して細胞運命を決定するということを解明しました。
我々は以前、DNA障害性抗がん剤とオートファジー阻害剤の併用により、リソソーム膜の障害が亢進し、がん細胞に対する殺細胞効果が強く増強されることを示しましたが、その分子機構はまだ明らかではありませんでした。
本研究では、DNA障害性薬剤により活性化されたp53が、リソソームの膜障害を亢進し細胞死を導き、一方で障害を受けたリソソームを除くため、オートファジーが同時に誘導される分子機構を明らかにしました。これにより、DNA障害性薬剤とオートファジー阻害剤の併用による細胞死増強効果のメカニズムを明らかにしただけでなく、がん治療におけるオートファジー阻害剤の適応症例の抽出や、リソソーム自体を治療標的とする新たな治療法の開発への可能性を示しました。
この受賞は私一人の力ではなく、多くの方々に支えて頂いた結果であると考えております。実験はもちろんのこと論文作成までご指導頂いた、生化学分野の宮澤啓介前主任教授、高野直治准教授をはじめとする生化学分野の先生方、そして研究する機会を与えて下さった当科の塚原清彰主任教授に重ねて御礼申し上げます。
山口 知子(臨床検査医学分野) *令和5年4月19日修了
In vitro validation of chromogenic substrate assay for evaluation of surrogate FVIII activity of emicizumab
(エミシズマブの等価第Ⅷ因子活性測定における合成基質法の有用性についてのin vitroでの検証)
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■指導研究室:臨床検査医学分野
この度は優秀学位論文賞を受賞することができ、大変光栄に思っております。
私の研究では、血友病A治療であり血液凝固第VIII因子(FVIII)の働きを代替する二重特異性抗体製剤(エミシズマブ)の効果をモニタリングする方法について、検証を行いました。エミシズマブはFVIIIと同様に、活性型第IX因子(FIXa)および第X因子(FX)と三重複合体を形成することで凝固能を発揮するものですが、その凝固能は既存の凝固測定方法では定量評価できないという問題点があります。そこで我々は、種々の凝固測定方法によって評価したエミシズマブによる代替FVIII活性を比較検討し、特に一般臨床でも測定可能な合成基質法によるFVIII活性値からエミシズマブの凝固能を予測するための換算方法を提唱しました。さらにエミシズマブとFVIII併存下での凝固能についても解析を行い、エミシズマブとFVIIIが単純な相加効果を示さない可能性も示唆されました。本研究の結果により、エミシズマブの治療効果を簡便に評価可能となることが期待され、現在本研究を元にした臨床試験を実施中です。また本研究から生じたエミシズマブとFVIIIとの相互作用に関する疑問は、今後の研究につながるものとなりました。
今回の受賞に際しまして、研究を支援してくださった臨床検査医学科の先生方に、日頃からの感謝も含め、この場を借りて心よりお礼申し上げます。
清水 広之(眼科学分野) *令和5年10月18日修了
Differential Tissue Metabolic Signatures in IgG4-Related Ophthalmic Disease and Orbital Mucosa-Associated Lymphoid Tissue Lymphoma
(IgG4関連眼疾患と眼窩粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫における組織中代謝物の相違)
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■指導研究室:医学総合研究所 低侵襲医療開発総合センター
この度、優秀学位論文賞を賜り大変光栄なことと思っております。本研究では、眼窩に生じるリンパ増殖性疾患であるIgG4関連眼疾患と、眼窩MALTリンパ腫の組織検体中の代謝物をメタボロミクスにより網羅的に測定し、比較および解析を行いました。パスウェイ解析の結果、眼窩MALTリンパ腫では解糖系およびTCAサイクルの代謝経路が変動し、エネルギー代謝が亢進していることが示されました。また、IgG4関連眼疾患ではアラキドン酸代謝経路が最も亢進していることが分かりました。バイオマーカーの検索では、スペルミンの鑑別精度が最も高くAUCは0.89でした。更に、5つの代謝物を組み合わせた機械学習(ランダムフォレスト)モデルではAUCが0.98と高い鑑別精度を示しました。次に行った、両疾患で発現差の大きかった上位5種の代謝物に対する検証測定では、4つの代謝物で再現性が確認されました。本研究により、両疾患の代謝プロファイルの相違が世界で初めて報告され、代謝物の関与する病態が明らかとなりました。また、バイオマーカー候補物質としてスペルミンを同定しました。
大学院での研究を通じ、世の中で実際に応用されている医療がいかに多くの過程と奇跡的な結果の積み重ねから成るのかということを考えさせられました。本学位論文を執筆するにあたり、日々時間を割いて丁寧に研究指導をしてくださった医学総合研究所 低侵襲医療開発総合センターの杉本昌弘客員教授、また、スタッフの皆様、そして研究に打ち込めるように環境を整え、サポートして頂いた当科の後藤浩主任教授、臼井嘉彦准教授をはじめとする数多くの眼科医局員のおかげかと思います。この場を借りて深く感謝申し上げます。